NAGOYA

CITY

ON READING

新たなページを自ら開き、発信し続ける
街の書店。

「ないなら自分で作ればいい」を形に。

名古屋の数少ない観光スポットのひとつとして知られる「東山動植物園」。そこからほど近い距離にある古いビルの2階にひっそりと存在する「ON READING」は、全国の本好きが訪れる名物書店だ。黒田義隆さんと杏子さん夫妻が営む同店は、本屋としての機能だけでなく、隣室を改装したギャラリースペース「ON READING GALLERY」や、企画からデザインまで手がける出版レーベル「ELVISS PRESS」の3軸で構成されている。


そもそもなぜ書店を開こうとしたのか? その理由は「自分が欲しいと思える本が名古屋では買えなかったから」というシンプルで気骨溢れるもの。「ないなら作ればいい」というDIY精神の元、手探りで動いたのが約20年前の2006年。その第一歩は現在のビルではなく、伏見・長者町の古いビル内にオープンした「YEBISU ART LABO FOR BOOKS」。前店舗は、海外の写真家のZINEやアートブックといった、黒田さんが欲しいけど買えなかったコアなジャンルをメインに取り扱っていた。

  • 写真左から黒田義隆さん、杏子さん。いつも二人できゃっきゃと笑っているイメージ。

  • 壁面に歪な形で積み上げられた本棚。こちらは黒田さんの手作り。新刊書籍がジャンル別に並ぶ。

  • 個人作家や海外レーベルのアーティストたちによるZINEを集めた棚も。

  • レジ横にレコードプレイヤー。店内BGMは二人がその日の気分でセレクトして流すスタイル。店内では、CDやレコードも販売コーナーもあり。

  • インディペンデントな雑誌や文芸誌のコーナーも。壁には、バリー・マッギー、名古屋拠点のアーティスト・鷲尾友公のシルクスクリーン作品が並んで貼られている。

  • 店内奥に進むと、古本のコーナーも。さらに奥に進むと、海外作家の作品集や写真集、アートブックなどが並ぶ小部屋もある。

  • 「ON READING」のアイコンも手がけた、姉妹ユニット・STOMACHACHE.描き下ろしアートワークのグッズも多数。

  • 自主レーベル「ELVISPRESS」の刊行物より。写真左:人類学者のリサーチ・グループ「ホモ・サピエンスの道具研究会」による『世界をきちんとあじわうための本』。中央:寺井奈緒美が何気ない日常を切り取った短歌&エッセイ集『生活フォーエバー』。右:アーティスト・宮田明日鹿による「港まち手芸部」の作品集『Knitting ’n Stitching Archives. 』。

自らのために、街のために、ページを開いていく。

2011年に現在の場所が見つかったタイミングで、国内の新刊書籍や雑誌も取り扱い始め、読書会やトークなども企画するなどし、さらに街に開けた書店「ON READING」が形成される。「店を始めた当初は、個人書店が取次(問屋)と契約することはおろか、出版社との直接取引さえも断られることもありました。どうしても仕入れたい本は直接作家側にコンタクトをとってなんとか仕入れていた」と当時の苦労を振り返る。時代が後から追いついてきた、とも言えるだろう。今や独立系書店は増え続け、出版業界は彼らのようなインディペンデントな動きにも注目を寄せている。



書店の運営、ギャラリーでの展示企画、出版物の制作、さらにはローカルカルチャーに特化したWEBメディア「LIVERARY」の立ち上げや、街と書店をつなぐ周遊イベント「BOOKMARK NAGOYA」など、能動的にこの街との関わりを築いてきた。全ては自分たちの内なる興味が発端だが、それらを軸に外へ外へと発信し続けてきた。


「長いことお店をやってると、学生だったお客さんが、作家やデザイナーになったりすることもあって。彼らが作った本がうちの店で売れたりすると素直に嬉しいね」と義隆さんは語る。「ON READING」は、単なる「街の本屋」では体現できない、小さな書店ができることの可能性を広げながら、なくてはならない「街の本屋」であり続ける。そんな理想的な1ページが日々ここから開かれていくのだ。

書籍、雑誌、ZINE、アートブックなど多種多様な本が揃う「ON READING」。センターテーブルに最近入荷されたオススメの書籍がジャンルレスに積まれている。どこから見たらいいかわからない方は、まずはここからチェックしてみて。

Photo:SHIORI IKENO
Interview, Text & Edit:TAKATOSHI TAKEBE (LIVERARY

GUIDE

武部敬俊

武部敬俊

LIVERARY」/「YOURCITYISGOOD?」編集部

アイデアに行き詰まったら、「ON READING」に駆け込みましょう。


編集者。1983年生まれ。これまでさまざまな編集プロダクション、出版社に勤務し編集ノウハウを学ぶ。2013年よりWebマガジン「LIVERARY」を仲間たちとともに始動し、名古屋を拠点にカルチャートピックを日々発信・提案し続けている。メディアの編集・運営のほか、イベントの企画制作、ショップのプロデュース、広告物や物販のグラフィックデザイン、アートワークまでを手掛け、広義における編集者として活動中。2025年、新しい視点を持ったカルチャーシティガイド「YOUR CITY IS GOOD ?」に、企画・編集として参加。

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