FUKUOKA

CITY

つどい Tsudoi

“夜の匂い”のあの場所へ。

最初は勢いで始まった。

住吉・美野島エリア、築55年のビルの入り口に、ピンクの提灯がぶら下がっている。そこに書かれた「夜の匂い」。昭和歌謡の7インチレコードから取ったというこのフレーズが、この店の空気をこれ以上なく言い当てている。提灯の文字を書いたのは、開店当初から親交のあった福岡在住のイラストレーター・NONCHELEEЕ。提灯屋に行ったらピンクしかなかったからピンクになった、というのもなんだかこの店らしいエピソードだ。夜9時に開き、深夜1時に閉まる酔い処「つどい」は、2026年10月で16年目を迎える。


始まりは長浜だった。長浜ラーメンで知られるその地で同級生がアパレル店を開いたのと同時期に、同じビルの中にあった「喫茶つどい」という喫茶店が閉店することになった。店内の雰囲気も古びたロゴもかっこよかった。だから物件を借りた。それだけが店を始めた最初の理由だった、と店主のギュウさんは話す。

壁一面に埋め尽くされる、かつてどこかで使われていた看板、古い映画広告、フライヤー、写真、CD、不思議なオブジェなど。店主のギュウさんが、客と話しながらカウンターを切り盛りする。

店主のコレクションに囲まれながら、すする蕎麦。

勢いで借りたはいいが、何をするかは後から考えた。ギュウさんの両親は長浜市場で仲買人を営んでいた。そこから何か仕入れられないか。自宅でよく作っていたあさりの炊き込みご飯の味をそのままラーメンにできないか。薬院のラーメン店「はなもこし」の店主である同級生の広畑典大さんに相談し、生まれたのが「あさりそば」だ。どっさりあさりが乗ったラーメンは珍しく、たちまち話題に。続いてより濃いめの「ぎゅうそば」も登場し、現在は「汁なしのアレ」として受け継がれている。


長浜から薬院、薬院から住吉へ。開店以来2度の移転を経験しながらも、この店は場所を問わず、独特の気配を引き継いできた。店内に一歩足を踏み入れれば、四方を埋め尽くす映画のポスターや昭和歌謡のレコードに目を奪われる。別に特別高価なものではない。「なにこれ?」と力が抜けてしまうようなもの。昭和のムードに惹かれ、学生時代から自分が面白いと思うものを長年をかけて集めたギュウさんのコレクションだ。中でも興味を引くのが、店内中央に額装されて飾られた故・立川談志の写真。「壊して新しいものを作る」という彼のスタンスに影響を受けたのだとギュウさんはいう。同様のスタンスを取り続けてきた集大成が、この「つどい」という場所なのかもしれない。


深夜にお腹を空かせまっさきに「つどい」を目指す人、仕事帰りに一杯ひっかけたい人、夜の街をぶらついてたどり着いた人。つどいに来る客の顔ぶれは、この店が営業を重ねてきた夜の数と同じくらい多様だ。住吉・美野島という、天神や博多からひと駅ずれたこのエリアに、わざわざ夜9時以降に足を運ぶ人たちが集まってくる。「ソレ」をすすりながら、ふと壁に目をやると談志と視線が合った。そんな唯一無二の時間がここにはある。

  • 「つどい」のメニューと言えば「汁なしのアレ」や「ソレ」。これって何ですか?と聞けば教えてもらえるが、フィーリングで頼んでみるのもいい。

  • 「美味しい豚骨ラーメンや中華そばを作る人はたくさんいるけれど、こんなもの作る人はいなかったから」と店主。某カップ焼きそばの完全無化学調味料オマージュ、「汁なしのアレ」。

  • 開店当時から続くメニュー。飲みすぎた日の締めにも欲しくなる、五臓六腑に染みわたるやさしく深い味わいの「あさりそば」。

  • 「トムヤムでもなく、酸辣湯でもなく、担々麺でもない」。既存のジャンルにははまらない「四次元そば」。

  • カウンターから目が合う、立川談志師匠の写真。スナックから出てきたところを捉えた一枚で、写真家のグレート・ザ・歌舞伎町が撮影したもの。

Photo:Shintaro Yamanaka(Qyum!)
Interview, Text:yae
Edit:TISSUE Inc.
Edit & Direction:Takatoshi Takebe(LIVERARY)

GUIDE

yae

yae

「『あさりそば』のスープまで飲み干せば、二日酔いはきっとない」


1997年東京生まれ。ニューヨーク州の山奥と海沿いで4年間の高校時代を過ごし、帰国後は循環を題目に取材や制作を開始。 より土に近い環境を求め2021年に九州に移住。

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