FUKUOKA

CITY

NOMATA

会話も楽しめる、
上質な音響空間。

思い描いた「ちゃんと音を聴ける場所」。

薬院の通りに面したビルの2階。階段を上がると、心地のいい音が出迎えてくれる。この日かかっていたのはブラジルのボサノバだった。レコードバー「NOMATA」は、今年で7年目を迎える。


店主の野俣洋明さんがDJを始めたのは20歳のころ。高校時代にパンクミュージックに触れ、やがてJAZZベースのアシッドジャズ、ハウス、ドラムンベースへと音の射程を広げていった。「当時はDJをするために仕事を選んでいた」というほど、音楽中心の生活を送っていた野俣さん。イギリスの著名DJジャイルス・ピーターソンが福岡を訪れた際には同行DJとして携わるなど、福岡のDJシーンの最前線に立ち続けてきた。そんな野俣さんが40歳を前にして考えたのは、自分がDJをするよりもむしろ、ちゃんと音を聴ける場所を作ったほうがいいんじゃないか、ということだった。

営業中の店内。カウンターで聴き入る人、会話を楽しむ人、DJブース前で体を揺らす人。それぞれの過ごし方で音を楽しむ。

音楽とワインが見知らぬ人同士に一体感を生む。

「NOMATA」がクラブではなくDJバーとして設計されているのには、明確な意図がある。「ドンドンドンドン」という低音だけに偏らない音の良さと出し方を追求し、イベント中でも会話ができる空間を意識してデザインされている。その工夫のひとつが、スピーカーの位置だ。耳の高さよりも上、天井から吊り下げるかたちでセッティングすることで、音は豊かに鳴りながら会話を邪魔しない。音響の監修はDJのMASUO(Desiderata)が担った。DJブース前にはスタンドテーブルが置かれ、立ってお酒を飲んでいるうちに、気づいたら身体が動いている——そんな自然な流れが生まれる。


メニューにナチュラルワインを取り入れたのも、野俣さん自身のビストロやフレンチカフェで働いた経験から生まれたアイデアだ。欧米の食と音の組み合わせの楽しさを、この空間に持ち込んだ。ビールやハイボールから飲み始めた客がいつしかボトルを開け、隣り合った同士で乾杯している光景が「NOMATA」では珍しくない。音楽とワインが、見知らぬ人同士のあいだに小さな一体感を生んでいる。


福岡はコミュニティが小さい分、ジャンルを越えて繋がり合う空気がある、と野俣さんはいう。「NOMATA」に来る若い世代に「レコードを持ってるならDJやってみたら?」と声をかけ、平日にDJを習いに来る後輩もいる。「教えてもらうところなんてないから、面白さを一緒に共有したいです。今の20代が50代になっても、今と同じことをしていてほしい」。そう語りながら気になったレコードを紹介してくれて、気づけばあっという間に時間が経っていた。音楽に年齢は関係ない。そのことを「NOMATA」という場所は、静かに、しかし確かに体現し続けている。

  • メニューの中心にあるのはナチュールワイン。16年以上前から扱い、まだ一般的ではなかった頃から「ナチュールワイン×ミュージックバー」という形をつくってきた。

  • 音響システムを支えるUREIのアンプ。レコードとの相性がよく、音の立体感を引き出している。

  • 音の良さと、会話を邪魔しない音量を両立させた音響設計。3種類のスピーカーを天井から吊るし、耳より高い位置から音を届けることで、クラブのような大音量ではなくても解像度の高い音が楽しめる。

  • カウンターに立つ店主の野俣さん。

  • 取材日の前日に訪れていたという広島のレコードショップ、「STEREO RECORDS」で買ったばかりのレコードをかけてくれた。旅先でもたいていレコードショップを巡り、この時もそのまま現地のDJプレイで使用したという。

Photo:Shintaro Yamanaka(Qyum!)、NOMATA
Interview, Text:yae
Edit:TISSUE Inc.
Edit & Direction:Takatoshi Takebe(LIVERARY)

GUEST & GUIDE

yae

yae

「こんないい音の中で美味しいお酒を飲むなんて贅沢……」

1997年東京生まれ。ニューヨーク州の山奥と海沿いで4年間の高校時代を過ごし、帰国後は循環を題目に取材や制作を開始。 より土に近い環境を求め2021年に九州に移住。

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